この記事は、日本弁理士会 関東会の弁理士の経験や知見をもとに、特許取得のための手続(特許出願)をご自身で行う場合と弁理士に依頼する場合とのメリット・デメリットについて触れています。 特許出願は専門家に任せることが一般的ですが、依頼費用を抑えるために自分で特許を取得したい方もいるのではないでしょうか。 ここでは、メリット・デメリットだけでなく、特許を取得したいときの相談先についてもご紹介しています。
弁理士に依頼するメリット・デメリット
【メリット】
1. 複雑な手続を一任できる
特許を取得するには技術的なアイデアを言語化する必要があります。例えば、以下の商品「カドケシ」のアイデアはコクヨ株式会社により特許取得されています(特許第4304926号)。
https://www.kokuyo.co.jp/award/archive/goods/kadokeshi.html
この特許の書類では以下のように言語化されています。
【請求項1】
複数の直方体又は立方体を組み合わせてそれぞれの立体が外方に突出した角を有する形状をなすとともに、前記直方体又は立方体の幅寸法、高さ寸法、奥行き寸法が全て全体の対応する寸法よりもそれぞれ小さい消しゴムであって、複数の直方体又は立方体を辺同士のみが互いに接するように配置しているとともに、接する辺の部分に接合部を設けて連続した形状にしていることを特徴とする消しゴム。
難解ですよね?
一見シンプルな形状のアイデアであっても、このような言い回しが必要になります。また、上記アイデアが具体的にどういう仕組みなのかを詳細に説明する必要があります。以下は、カドケシ特許の詳細な説明の抜粋です(1ページ(A4)の半分のみ)。
特許に馴染みのない方は、読んでいて気が遠くなるのではないでしょうか?
上記のほか図面も含めた全体で8ページ(A4)の書類となっています。これでも凄く短い方で、数十ページになることが多いです。100ページを超える場合もあります。
このように、特許取得では、適切な言語化が必要であり、出願書類は非常に複雑です。弁理士の活用によりこのような複雑な手続を一任することができます。
2. 権利範囲の最適化
「カドケシ」特許の書類の一部を再度示します。
【請求項1】
複数の直方体又は立方体を組み合わせてそれぞれの立体が外方に突出した角を有する形状をなすとともに、前記直方体又は立方体の幅寸法、高さ寸法、奥行き寸法が全て全体の対応する寸法よりもそれぞれ小さい消しゴムであって、複数の直方体又は立方体を辺同士のみが互いに接するように配置しているとともに、接する辺の部分に接合部を設けて連続した形状にしていることを特徴とする消しゴム。
上記は特許請求の範囲(請求項)といって特許の権利範囲を定める役割があります。この言語化された文言一つで他社の模倣を簡単に許す場合もあり、模倣を防げられる場合もあります。このため、弁理士は、模倣を最大限防ぐべく、アイデアを正確に言語化するだけでなく請求項を何通りも作ることも珍しくありません。その前段階として顧客とのディスカッション行っており、顧客の背景事情をも特許書類に反映させます。このように、弁理士の活用により、単に特許を取得するだけでなく、自社のアイデアを他社の模倣から防ぐための特許を取得できます。
3. 他の選択肢の提案がある
特許の取得には審査をパスする必要があり、高額な費用がかかる場合もあります。一方、アイデアの内容や顧客の目的・予算によっては、実用新案登録や意匠登録をするという選択肢もあります。弁理士は、具体的なアイデアや顧客の状況を踏まえて、どの手続を取るのが良いかを提案します。
つまり、弁理士の活用により、ご自身の目的に沿った権利の取得が可能となります。
【デメリット】
1. 費用
弁理士に依頼すると、そのサービスに対する費用が発生します。したがって、自身で出願するよりも高額になります。
2. 弁理士選びが大変
ご自身に合う弁理士を見つけることは簡単ではありません。弁理士は専門が細分化されています。例えば、シンプルな形状のアイデアを得意とする弁理士もいれば、ソフトウェアに強い弁理士、商標登録に特化した弁理士等多様です。顧客層も分かれている場合があり、中小企業を主な顧客とする弁理士もいれば、大企業を主な顧客とする弁理士もいます。それぞれの専門や顧客層によって、得意不得意や相性があります。そこを見極めることが重要であり、ご自身に合う弁理士選びをすることは一筋縄ではいきません。 ひとつの選択肢として、日本弁理士会関東会によってご自身に合う弁理士を紹介する弁理士紹介制度があります。この制度によって、弁理士選び困難のデメリットが解消する一助となればと幸いです。
弁理士に依頼する費用
弁理士に特許申請(出願)を依頼する際の費用は、その内容や複雑さによって大きく異なります。
一般的に、基本的な特許申請には数十万円程度が必要とされますが、案件によって費用は変動します。加えて、特許庁に支払う印紙代や審査請求料、年次登録料(維持費)等も考慮する必要があります。
このため、実際の費用を把握するためには、具体的なアイデアの詳細を伝えて見積もりを依頼するのが賢明です。
【ご自身で手続きする場合】
特許庁に支払う特許印紙代のみが必要となります。
収入印紙ではないのでご注意ください。
特許出願
14,000円
出願審査請求
138,000円+(請求項の数×4,000円)
特許料(維持費)
第1年から第3年まで 毎年 10,300円+(請求項の数×900円)
第4年から第6年まで 毎年 16,100円+(請求項の数×1,300円)
第7年から第9年まで 毎年 32,200円+(請求項の数×2,500円)
第10年から第20年まで 毎年 64,400円+(請求項の数×5,000円)
【弁理士に依頼する場合の例】
上記特許印紙代に加えて以下の費用が必要となります。
弁理士手数料 25~35万程度
出願審査請求料 13万円程度
特許料 万円程度
弁理士の費用(報酬)アンケート
https://www.jpaa.or.jp/free_consultation/howto-request/attorneyfee/attorneyfeequestionnaire/
※相談料や着手金、実費、成功報酬など、弁理士によって料金体系が異なるため、事前に確認が必要です。特許取得のためには拒絶理由通知を受けて審査官とやり取りが発生することも珍しくありません。その点も含めて必要な費用については個別の見積をお勧めいたします。
特許を扱う弁理士から追記・修正予定です。
弁理士の探し方と相談先
弁理士を探す際は、「弁理士ナビ」という日本弁理士会が運営する検索システムの利用する方法やご自身で弁理士事務所をネット検索するなどして直接連絡する方法があります。弁理士ナビでは、全国に10,000名以上の弁理士会員を有し、登録された会員の検索が無料で可能です。
一方、「弁理士紹介制度」を活用する方法もあります。この制度は、日本弁理士会関東会によってご自身に合う弁理士を紹介してもらえます。
まとめ
弁理士に依頼すると、特許の書類の複雑さから回避できたり模倣を適切に防げるメリットがある一方で、コストがかかったり弁理士選びが大変というデメリットもあります。これらのメリット・デメリットを考慮し、自分で特許出願するか弁理士を活用するかを決めるのはいかがでしょうか。
弁理士に依頼することをご検討の場合には、是非、弁理士紹介制度によりあなたに合う弁理士を探してみてください。
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